2012年03月19日

「パーマ屋スミレ」 新国立劇場 小劇場 (初台)

2008年(2011年再演)の名作「焼肉ドラゴン」の作者兼演出家、鄭義信の最新作。
「焼肉ドラゴン」より5年ほど遡った1965年頃、九州の炭鉱町「アリラン峠」が舞台。

前回と同じように、在日コリアンの3姉妹を中心に、高度経済成長や豊かさとは無縁の人々のおかしいほど悲しい必死な生き様が描かれます。

今回は、炭塵爆発の一酸化炭素中毒で夫たちが治る見込みも希望もないCO中毒患者になってしまうという救いようのない絶望的な状況が加わり一層悲惨さが増しています。
次女須美(南果歩)と三女春美(星野園美)の夫たち、成勲(松重豊)と昌平(森下能幸)は、CO中毒患者となり、成勲の弟、英勲(石橋徹郎)は、地上の楽園でないことを薄々知りながら北朝鮮へ帰還します。三女春美は、CO中毒で苦しんでいる夫を手に掛けて、自分も警察に自首します。
病気や貧困、組合問題、会社との戦いのなかで、登場人物が一人二人と欠けてゆき、遂には、石炭産業の衰退に伴い炭鉱は閉鎖。
須美と夫の成勲の二人だけが町に残ります。

姉の初美(根岸季衣)家族が去った後、須美が成勲の髭をあたるラストのシーン。今までの怒鳴りあい、殴り合い、愛憎がぶつかりあってきた時間がウソのように、一瞬の平和が二人に訪れます。
雪が降り始め、この芝居の案内人である成人となった甥の大吉(酒向芳)が、二人の上にそっと傘を差し掛け、舞台一面に広がった白い雪が緞帳となって幕が下ります。
ようやくここで救われたような、すべてが昇華された瞬間の美しさを観るだけでもこの芝居を観る価値がありました。
「焼肉ドラゴン」で死んでしまった息子の時生が、トタン屋根の上から集落を後にする両親の後ろ姿に手を振る場面に散る桜の花びらに勝るとも劣らない美しさです。

この作品でも、鄭義信は、一番大事なメッセージをアボジ(父親)である洪吉(青山達三)に託していたと思います。ごろごろ寝てばかりいて、「万歳」と言う以外無口で何もしていないようなアボジも、常に家族の精神的なよりどころでありすべての規範であったと思います。三女春美が、警察へ自首する場面で、洪吉は春美に「だから生きろ(こういうセリフだったと記憶しています。若干曖昧)」と言います。
何故とかどうしてとか面倒な説明はなく問答無用に「生きろ」です。その言葉の重み深さは、洪吉にしか発することのできないメッセージだったと感じました。

新国立劇場 小劇場 3月25日まで。(キャンセル待ちで並べば、まだ観るチャンスはあるかもしれません)

ぜひとも、再演を期待します。

ロビーに展示してあった舞台セットのミニチュア
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sumire

jnks1951 at 21:15│Comments(0)TrackBack(0) 映画・演劇 

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